高齢化が進む今、歯科医院にとって「訪問歯科」は単なる選択肢ではなく、地域医療への貢献と経営安定の両方を叶える重要な柱になりつつあります。
「興味はあるけれど、何から始めればいいかわからない」
そんな院長先生やスタッフの方へ向けて、訪問歯科の始め方をわかりやすくまとめました
訪問歯科とは、歯科医師や歯科衛生士が患者さんのご自宅や介護施設などを訪問し、必要な治療やケアを行う歯科診療のかたちです。対象となるのは、「病気や障害、加齢によって自力で通院が難しい方」です。
具体的には、以下のような方が対象になります。
年齢に制限はありませんが、実際には高齢の方が中心になるケースが多く見られます。
訪問歯科では、外来と同様の基本的な歯科治療に対応できます。
口腔内のケアは、誤嚥性肺炎や低栄養のリスクを減らすことにもつながります。まさに、患者さんの健康寿命を支える「入口」となる医療行為なのです。
訪問歯科は、患者さんを医院に「迎える」外来診療とは異なり、歯科医師や衛生士が患者さんのもとへ「出向く」スタイルです。以下のような違いがあります。
このように、訪問歯科には「広い範囲の患者に対応できる」「診療単価が高い」「設備に縛られない」といった外来にはない特長があります。
訪問歯科は、外来と同じようにすぐに始められるわけではありません。診療の精度や採算性を保ちながら無理なく運用するには、事前にいくつかの準備が必要です。ここでは、訪問歯科を始める前に準備しておきたい基本の4項目をご紹介します。
保険医療機関として届出を済ませている歯科医院であれば、基本的に訪問診療を行うための「特別な許可」は必要ありません。ただし、一定の届出をしておくことで、保険請求できる点数が大きく変わります。
特に重要なのが、以下のような施設基準です。
また、介護保険の「居宅療養管理指導費」を請求するには、介護事業所としての“みなし指定”が必要です。通常は医療機関であれば自動的に指定を受けていますが、以前に「辞退」していた場合は再申請が必要になります。
外来と違って、訪問歯科では診療器具を持ち出して治療を行う必要があります。とはいえ、いきなりすべての機材をそろえる必要はありません。
最初に用意しておきたいのは、以下のような基本セットです。
治療内容の幅を広げたい場合は、ポータブルユニットやポータブルレントゲンの導入も検討できますが、初期段階では無理に購入しなくても構いません。リースやローンも活用しながら、診療スタイルに合わせて段階的に揃えていくのもよいでしょう。
診療に使う器材やスタッフを患者宅まで運ぶための移動手段の確保も大切です。
最初は大がかりな車両を用意しなくても始められるので、「小さくスタート、状況を見ながら拡大」が基本です。
訪問診療は、法的には歯科医師1人でも始められますが、実際には1人で対応するには限界があります。たとえば、口腔ケアの補助やバキューム操作、器具の受け渡しや後片付けなど、細かな動きが多く、すべてを1人でこなすのは現実的ではありません。
そのため、多くの医院では歯科衛生士や助手に同行してもらい、サポート体制を整えたうえで訪問診療を行っています。また、外来診療とのバランスを考慮し、訪問診療の時間帯が過度に外来と重ならないよう、スケジュールを無理なく調整することも重要です。
さらに、誰がどのような役割を担うのか、訪問時の動きや流れについて、あらかじめ院内でルールを共有しておくと安心です。特に、外来と訪問のどちらにも関わるスタッフがいる場合は、「訪問の日は昼休みを使う」「外来の予約が少ない時間帯に出向く」など、診療全体の動線を意識した運用が必要になります。
訪問歯科の準備が整ったら、いよいよ実際の診療が始まります。とはいえ、「どこに行けばいいのか」「どうやって患者さんとつながればいいのか」といった不安を感じる先生も多いのではないでしょうか。
スタート直後は無理に広げすぎず、訪問先の選定や患者との接点づくりを丁寧に行うことが、安定した運営につながります。
訪問歯科を始めたばかりのタイミングでは、いきなり新しい患者さんを探しに行くのではなく、まずはこれまで外来に通っていた高齢の患者さんに声をかけてみることをおすすめします。
たとえば、カルテを確認して過去に来院されていた高齢の方の中に、「最近ぱったり来なくなった」という方はいないでしょうか?
もしかすると、体調の変化や移動手段の問題で通院が難しくなっている可能性があります。そうした方に電話やハガキで訪問診療の案内をすれば、想像以上に感謝されることも少なくありません。
医院に信頼感を持ってくださっていた方からスタートすることで、こちらも安心して訪問診療を始めやすくなります。
訪問診療を始めたばかりの時期は、できるだけ移動時間を抑えられるエリアを中心に訪問先を選びましょう。
理想は、医院から車で片道20〜30分以内。1件あたりの診療時間に加えて移動時間がかかるため、遠方ばかりだと採算が取りづらくなることがあります。
まずは近隣の介護施設や高齢者住宅などをリストアップし、その中で訪問先の候補になりそうなところに挨拶や案内を行っていくとスムーズです。1つの施設で複数の患者さんを診療できる場合は、移動ロスが減り、1日に対応できる人数も増やせます。
地域の介護関係者への周知も進めていきましょう。特に、ケアマネジャーが所属する居宅介護支援事業所や、地域包括支援センターには、通院困難な高齢者の情報が集まっています。
こうした事業所に訪問し、「〇〇歯科では訪問診療を始めました」とお伝えするだけでも、紹介につながる可能性があります。パンフレットや案内資料を持参して、診療内容や対応できるエリア、予約方法などを丁寧に説明すると、印象にも残りやすくなります。
最初のうちは「訪問できる曜日や時間帯に限りがあります」と伝えておくことで、無理なくスタートしやすくなります。
また、介護施設に訪問する際には、いきなり診療契約を取りに行くのではなく、口腔ケアに関するミニ講習や、無料検診の提案などを通じて関係性を築くことも一つの方法です。
実際に顔を合わせて「どんな歯科医院なのか」「どんなことができるのか」を伝えることで、施設側も安心して相談してくれるようになります。信頼関係が築けたら、「この入居者の義歯が合っていなくて…」など、具体的な依頼がくることも増えていくでしょう。
訪問歯科を始める準備が整い、実際に診療もスタートできたとしても、そこで終わりではありません。ここでは、訪問歯科の運営を軌道に乗せるための視点として、ケアマネジャーや施設との関係づくり、そして集客のポイントをご紹介します。
訪問歯科の現場では、ケアマネジャーの存在がとても重要です。
患者さん本人やご家族よりも先に、ケアマネを通じて依頼が入ることも珍しくありません。特に在宅療養中の高齢者については、ケアプランに沿って各職種のサービスが調整されるため、歯科もその中に“組み込んでもらえるかどうか”が大きな鍵になります。
初診後には治療内容を報告書にまとめて送る、月1回の経過を簡潔に連絡する、といったこまめな情報提供が信頼関係につながります。さらに、可能であればケア会議(サービス担当者会議)に出席し、他職種と直接顔を合わせてコミュニケーションをとるのも非常に効果的です。
歯科の視点から助言できる存在として認識されることで、相談や紹介の機会も増えていきます。
訪問診療は、歯だけを診ていればいいわけではありません。特に高齢の患者さんでは、全身の健康状態や生活状況も密接に関わってくるため、看護師や介護スタッフとの連携が欠かせません。
たとえば、口腔内の変化や義歯の不具合に早く気づいてもらうために、施設職員や訪問看護師と日常的に情報交換をしておくと、スムーズな対応が可能になります。
診療後には、その日行った処置やケアのポイントなどを簡単に伝えておくと、スタッフ側も状況を把握しやすくなり、次の診療につながるコミュニケーションが生まれやすくなります。
訪問歯科診療を提供していることを、地域の人にどうやって知ってもらうか。その解決手段のひとつが、ホームページやSNSの活用です。
実際に医院を探すのは、高齢の患者さん本人よりも、そのご家族やケア関係者であることが多くなります。そのため、検索で訪れたときに「訪問診療をしている」とすぐにわかるよう、対応エリアや受付方法、訪問の曜日、診療内容などを明記しておくことが大切です。
また、「ポータブルレントゲンあり」「摂食・嚥下の相談も可能」など、自院の特長を具体的に書いておくと選ばれやすくなります。
訪問歯科を始める際の主な流れは、次の通りです。
最初から完璧に整える必要はありません。既存の患者さんからスタートし、訪問エリアを絞って無理のない範囲で運営を始めれば、徐々に依頼や紹介が増えていきます。一歩を踏み出せば、訪問歯科は患者さんに喜ばれるだけでなく、地域医療への貢献や経営の安定にもつながるでしょう。
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